海外拠点だより

2022年03月09日

第17号記事【シンガポールだより】 を掲載します。

<シンガポールから土佐日記 その3> ~シンガポールにも高知が~

 

 シンガポールは小さな島国です。地形的には東京23区と同じほどの面積に、東京都の人口の半分くらいの人々が暮らしています。毎日の気温は30度前後。日の入と日の出の時間は、まるで判を押したように毎日午前7時と午後7時です。季節は乾季と雨季の2シーズンですが、それも境目が良く分からないので実感はありません。春夏秋冬それぞれに楽しめる豊かな食の恵み、四季折々に美しさが見事に移り変わる日本にくらべれば、シンガポールにはそういった楽しめる季節の変化はありません。この国で高層ビルに囲まれた生活をしていると、シンガポールの人々がほぼもれなく海外旅行が大好きでグルメである理由が良くわかります。

 

 2019年暮れから始まったパンデミックは現在でも落ち着かない状況ですが、この小さな島国に蔓延したらひとたまりもありませんから、「ゼロコロナ」を国策として飲食店閉鎖をはじめとした強力な規制強化と緩和を繰り返してきました。結果的に素早い対応が奏功して世界的に高いワクチン接種率を実現したことで、当地における重症者や致死率の低さは際立っています。これを背景として「コロナとの共生」へ方針が転換されたことで、市中には明るさが戻ってきたようです。まだまだ予断を許さない状況ですが、希望を込めて言えばエンデミック近しを感じさせるこの頃です。

 

 高知県シンガポール事務所の役割として「高知に関わる全ての県内事業者の海外展開を支援する」と決めております。そこで今回のシンガポール便りは、パンデミックという災禍の中でも頑張る高知県として、「高知観光PR」「高知の食品」「高知のモノづくり」それぞれの領域における当所の活動や、シンガポールでの「高知家」の活躍をレポートいたします。

 

1.観光PR
 ある調査において「コロナが収束したら行ってみたい上位3カ国は、日本・シンガポール・オーストラリア」とのことです。言うまでもなく多くの日本人にとってシンガポールは人気の観光地ですが、シンガポールの人たちの日本好きも想像以上です。「もう2度3度と日本に行った」と自慢するシンガポール人にたくさん出会いました。その中で「東京や大阪も良いけど、この次は他の地方を訪れてみたい」という言葉をよく聞きますが、これは高知県にとってはチャンスです。
 シンガポール事務所は高知県へのインバウンド観光振興の側面支援もさせていただいておりますので、当地の観光業者やJNTO日本政府観光局と連携して高知県をPRする仕事も増えています。コロナ禍で自由がきかないため、シンガポールの旅行好きな人々と高知の観光名所をオンラインで結び、ライブ感あるバーチャルツアーの中で見どころを紹介することで、ポストコロナにおける高知への旅行客増を後押ししています。JNTO日本政府観光局シンガポールによれば、海外旅行が好きなシンガポールの人々が行きたい場所として、コロナ前のデータでは高知県は47都道府県において最下位でした。しかし最新調査において12位タイとなり、高知県が「行きたい場所」として認知されたのはとても嬉しいことでした。同調査では、パンデミックで変わった人々の行動様式として「脱都会-自然志向」が生まれていると分析されていました。四万十、仁淀、室戸、宿毛、足摺などなど、訪れてもらい、異文化を感じてもらいところはいくらでもあります。
 観光と非常に相性の良いテーマが「食」で、それぞれの地方にあるユニークな食材もできる限り紹介しています。当地のECサイトで購入できる仕組みも作りました。いわば「観光+食」のハイブリッドなイベントです。日本との自由な往来ができるようになった暁には、当地や世界中から多くの旅行客が来高してくれることを期待したいと思います。

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2.食品輸出振興
 なんとシンガポールでは柚子の英語表記が”YUZU”として定着しており、知らない人はいないと思えるほど認知度は高いです。振り返れば「柚子の輸出拡大」は第一次高知県産業振興計画で狙ったテーマで、以来長年にわたって県の関係者と県内事業者が共同歩調でひたむきに輸出促進を進めてきた結果として大きな成果です。シンガポールにおいては地場のドリンクメーカーMDI社のパックジュース「Peel Fresh Select」に採用されて以来10年が経ち、どこでも買える人気飲料となりました。柚果も日系スーパーで入手できますし、果汁も高知県業者から安定的に供給される体制もできたことから、多くの有名シェフやパティシエが定番のように扱ってくれています。高知県としてはこれは大きな財産であり、またサクセスストーリーでもあります。
 もちろん柚子だけが高知県ではありません。生鮮野菜、鮮魚、スイーツ系食品、加工食品、その他県産食品全般のPRを推進しております。大手スーパーにて定番商品として常時販売されている食品も多いのですが、これからの海外ビジネス拡大に熱意のある県内事業者様の目新しくユニークな食品の数々もPRを進めています。世界中から食材の集まるシンガポールなので、まさに砂の中からキラリと光る高知県商材をどうやって選んでもらうかがチャレンジです。選んでもらうためにはとにかく食べてもらう必要がありますが、残念ながら現在はコロナ禍で試食会が実施できませんので、実際に購入して食べてもらうというステップが必要です。食べて初めて良さがわかるわけで、そこに至るためには事業者様にはビジネスの原点である「確かな商品」「納得コスト」「迅速納期」この3点をひたすらブラッシュアップすることしかありません。大きな石を転がすときに、最初の一押しが一番エネルギーを使います。簡単ではありませんから試行錯誤の連続ですが、数多くの県産食品の良さをしっかりとPRしつつ、ひとりでも多くの舌の肥えたシンガポールの人々に届くよう商流や物流の構築もお手伝いします。販売開始となれば、まずは50名ほど在籍する在星高知県人会の皆様にも告知することにしています。高知ゆかりの皆様から「え!シンガポールで買えるの?私の好物!」という反応をいただくことが嬉しいですね。これまでに撮りためた画像からシンガポールで見つけた高知県産品をご紹介しておきます。

3.高知県モノづくり企業支援
 あまり知られていないかもしれませんが、高知県には完成品メーカー、大手企業への協力企業、素材メーカーなど数百にもおよぶモノづくり企業があります。主として日本国内市場を相手としてビジネスを推進されていますが、その中で50社を超える県内企業が海外向けビジネスを展開、あるいはこれから進出しようとしています。今号では、シンガポールに営業拠点を持ち東南アジア地域を舞台に活躍されている技研製作所様をご紹介したいと思います。
 同社は建築土木業界において工事現場で不可欠な圧入杭打機の開発メーカーです。「サイレントパイラー」という無騒音・無振動で且つ狭隘な現場でも使える小型さをセールスポイントとして急成長している企業で、四半世紀前からシンガポールに地域拠点としての技研アジア社を設立し稼働しております。日本の「国土強靭化」施策はインフラ整備ニーズを背景として、これまで比較的安定的に同社の需要を創造してきたといえます。
 日本は災害が多いから、という声が聞こえてきそうですが、実は「サイレントかつコンパクトであること」という商品価値は世界共通のものです。どの国においても建設需要があり土木工事があります。安全安心の生活を支える防災減災目的のインフラ強化もあります。間違いなくグローバル市場において同社の持つ技術でビジネスが急成長するポテンシャルがあります。近年に一部上場を果たすと同時に、海外市場向けの同社営業体制を加速度的に強化しております。昨年タイのバンコクに事業所を開設し、すでに10社ほどの現地提携先確保を実現しています。またインドでは初号機受注を果たすなど、拠点としての技研アジア社の動きは迅速です。
 また、商品開発面でのホットニュースとしては、同社の新システムが駆動源を燃料エンジンから電動モーターに変更した結果、「CO²排出ゼロ」がセールスポイントに加わったことです。自動車がガソリンからEVに代わるのと同じで、SDGsへの貢献として複合的に価値を高めたといえます。これを世界に売り込まない手はありません。サイレント・コンパクト・エコロジー、この3点セットはグローバルに強烈なメッセージです。Made in Kochiの同社製品がシンガポールには累計100台輸入されています。1台数千万円の製品ですから、これは驚きの数字です。中古品の流入も多いようですが、38台は同社提携先との直接取引でメンテナンスを含めて直接のトータルサポート体制を実現しています。売りっぱなしにしない、これはB2Bビジネスで最も肝心なことです。
 私たち事務所が実際のビジネスに関わることはありませんが、県代表の公的機関として大使館や各国の公的機関、またゼネコンとのパイプ作りなどで同社を側面支援しております。下の写真は、ここシンガポールの工事現場でのサイレントパイラー稼働の様子です。高層ビルの周囲で「高知家」が頑張っております。

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(文責:高知県シンガポール事務所長 依田康夫)

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