海外拠点だより

2021年02月09日

第10号記事【シンガポールだより】 を掲載します。

<シンガポールから土佐日記 その2> ~パンデミックにおける新たな楽しみ~

 

 世界的にみれば、昨年初頭から始まったコロナ禍はほぼ一年を経た今でも収束の気配がありません。感染者数はますます増加状況で、欧米においても日本においても医療体制崩壊の危機がニュースにならない日はありません。全世界で既に一億人以上が感染、亡くなられた方はとうに200万人を超えてしまいました。暗澹たる思いがします。パンデミックですから本来ならWHO主導による世界規模のリスクマネジメントが徹底されるべきでしょうが、最適な治療方法が確立しているわけでもなく模索状態、ワクチンも各国政治の思惑が入り乱れますから国単位での対策にならざるを得ず、おのずと国ごとの成果に大きな差がでています。当地シンガポールは強力な政治のリーダーシップで抑え込みに成功しています。毎日国民全員に伝えられる保健省の報告では、ここ数ヶ月ほとんどの日は市内感染ゼロです。いっぽうで国外からの入国時の検査や入国後の隔離期間のなかで毎日20-30人の感染が継続的に見つかっていますが、これとて感染者は市中には出さずに治療対応となるので水際で止まる仕掛けです。この背景には規則を守らないときの罰則やそれに対する国民の不満感はもちろんありますが、結局はそれを受け入れてフォローするという政治への信頼感があるのは間違いありません。

 

 この一年のあいだに、日本からシンガポールに住居を移して両国の感染対策を目の当たりにしていますが、欧米に比較すれば、両国ともに人口比での感染者数も死者数も極めて少ないのは間違いありません。WHOデータ(2月3日時点)によればコロナによる死者数は米国が45万人超で人口100万人あたり1329人、日本が6千人弱で100万人あたり約47人、なんとシンガポールでは僅かに29人で100万人あたり約5人です。国民性としての手洗い等の清潔生活習慣、控えめ会話、高度の医療体制、強力な規制ないしは同調圧力、等が要因ではないかと専門家は分析しています。もちろん自然にそうなったわけはなく、日本でも当地シンガポールでも家庭内自粛、リモートワーク、集会制限、飲食店時短など、経済を犠牲にしつつ相当の感染対策が打たれてきましたし、現在も継続しています。

 

 このように抑え込みに一定成果が出た結果として、当地においては徐々にではあるのですが規制緩和が進んでいます。昨年の強制的な自宅待機のストレスを経験したシンガポールの皆さんには解放感が格別のようです。そこでどのように生活を楽しみ始めたのかご紹介してみたいと思います。

 

 「アウトドア文化の開花」というと大袈裟な言い方ですが、過去一年におよぶコロナ禍における自粛の反動は間違いなくあって、今後も変わることはないであろう「密」を回避することの必要性と生活を楽しむことのバランスがシンガポールに新しい生活様式をもたらしつつあると感じます。休日に街を散策すれば、緑豊かな公園で色とりどりのレジャーシートを敷いて余暇を楽しむ人たちで埋め尽くされています。ランチを楽しむ家族連れや仲間グループやデート目的のカップル、なかにはさすがに音量は押さえているもののポータブルカラオケを持ち込んで楽しむ人たちにも遭遇します。遠目からグループの構成人数を数えてみたら、罰則(FINE)付きのグループ5名以内(今年から8名)という集会人数制限をどのグループもきっちり守っておりました。まさにFINE COUNTRY シンガポールならではの光景でしょうか。

 

 アウトドアといえばなんといっても釣り、釣り人口がシンガポールで急増しています。釣具屋さんが私の住まい周辺だけでも3件もあります。最初に訪れたとき、高知企業製のジグやルアーも売られているのを発見したのは嬉しい出来事でした。実は、当地では政府の徹底的な環境管理のもと日本のようにどこでも竿が出せるわけではなく、限られた指定ポイントのみでしか出来ないのですが、沖に船を出しての釣りや、港湾での釣り、に加えて日本風の管理釣り場(要するに釣り堀)が大変にぎわっています。結構な広さがあって周辺にはフードコートが立ち並び、しかも24時間営業なのでファミリーフィッシングには最適で休日には予約が殺到しています。余暇には私も友人と一緒にリクリエーションを楽しみます。

 
釣り1釣り2釣り3釣り4

 

 もうひとつアウトドアといえば、ジョギングやウォーキング。昨年来のコロナ禍で室内生活を余儀なくされた人たちが思い思いのウェアに身を包んで楽しんでいるのを見ない日はありません。ウォーキングのあとのビールがたまらないんだよね、とは当所某スタッフの弁。

 

 また特筆すべきは、サイクリングブームです。もともと熱帯性気候で蒸し暑いことや、バス、電車、タクシーなど公共交通機関が高度に効率的なこともあって、利用者が非常にすくなかったその自転車がコロナ禍で見直されて、大きな生活様式の変化になっています。その状況はNHKシンガポール支局が昨年12月6日放送の「おはようニッポン」に現地レポートとしてオンエアされましたので御覧になった方がおられるかも知れません。この自転車ブームを受けて政府がサイクリングロードを現在の3倍の長さに整備すること、シェアサイクル台数を来年には今の4倍の3万台に増やすことなどが日本で放送されました。いったん定着すれば一時的なブームではなくポストコロナでもサイクル文化として継続すると期待されます。高知県企業の地下駐車場やモバイルサイクルなどへのビジネス拡大に楽しみなターゲット市場でもあります。

 

 変異性のウィルスへの対策など新しいチャレンジ課題が次から次へと出現するなかですが、多くのワクチン供給元が名乗りをあげ心強い限りです。シンガポールを含めて実際に多くの国で接種が始まっております。治療方法も世界規模で研究が進んでいます。世界的な収束にはまだまだ時間がかかりそうですし、収束したとしてもほんとの意味でのコロナ前の普通の生活には戻れないのは間違いありません。アウトドア志向に加えて、国土の狭いシンガポールの人たちは海外旅行が大好きです。自由な往来が可能になったら日本に行きたいという皆さんにたくさん会いました。しかも、行きたい場所は大都市の東京、大阪ではなく、解放感があって自然を楽しめ、美味しいものがたくさんある、フレンドリーなところ・・・だそう。地方観光振興にはチャンス到来、ここぞと高知の良さを売り込んでいます。

 

 自分たちを取り巻く厳しい環境のなかでも出来ることをしっかりこなして前を向きながら、したたかに人生を楽しむ、そんなシンガポールの国民性を身近に感じる今日この頃です。

 

(文責:高知県シンガポール事務所長 依田康夫)

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