Ryoma dreamed Beyond the Pacific Ocean

2025年06月11日

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ドンキが映す海外市場と県産品輸出の可能性

 

 

高知県シンガポール事務所
池田 晃久

 

 高知県シンガポール事務所の駐在員に4月から着任いたしました、池田と申します。

 着任してから、早いもので約2か月が経過しました。まだまだ新しい環境に慣れようと奮闘中ではありますが、日々の生活の中で様々な「違い」や「発見」に触れる機会も増えており、新鮮な毎日を送っています。

 今回は、身近な範囲で違いを実感できる内容として、この2月に高知市内に初めてオープンしたディスカウントストア「ドン・キホーテ」と、近年シンガポール国内で急速に拡大している「Don Don Donki(以下ドンキ)」との違いから読み取れる課題や可能性について私なりにではありますが考察してみました。

 

◯高知の「日常」、シンガポールの「体験」

 国内唯一の空白県であった高知県に初めてドン・キホーテが出店した際、オープン初日には多くの来店客が駐車場にまで会計待ちの列をなし、ネットニュースやSNSでも大きな話題となっていました。商品ラインナップは食品から雑貨、家電まで多岐にわたり、「見るだけでも楽しい」体験を提供しています。
私も着任前に訪れましたが、独特の陳列やポップ、そして何より深夜遅くまで営業している点など、地方都市でありながら「都会のドンキ」がそのまま移植されたような空間は、若者や家族連れを中心に新しい集客の場となっていると感じました。

 

 一方、シンガポールのドンキは「日系体験の場」としての色がより濃いと感じます。日本の店舗に比べて生鮮食品、惣菜、加工食品や調味料などの取り扱いが豊富で、フロア構成やポップ、BGMなど、あえて日本らしさを強く演出している印象です。在星日本人にとってはまるで日本に帰ったかのような安心感が得られる場所であり、地元の方々にとっては非日常を味わえる場所として、いつも多くの買い物客で賑わっています。

 

 また、これまで日系スーパーなどで高値で販売されていた商品が、ドンキでは比較的安価で提供されています。これにより、シンガポールローカルや日本産の食品が手の届く価格で買えるようになり、購買層の裾野が広がっています。

 

 特筆すべきは、シンガポールのドンキにおいても高知県産品が目立つ位置に陳列されており、調味料、菓子類、飲料など、地元で親しまれている商品が、遠く離れたシンガポールの消費者の手に渡っていることです。その光景を見るたびに、県出身者としては誇らしい気持ちになりますし、これまで事業者の皆さまが海外展開に取り組んでこられた成果の一つと感じます。

 

◯ドンキがもたらす「価格破壊」とその功罪

 シンガポール以外の東南アジア市場にも目を向けると、タイやマレーシア、フィリピンなどでもドンキの出店が進んでいます。これらの市場でも「日本品質」「非日常体験」といった価値が消費者に受け入れられており、ドンキは各国の嗜好に応じて店舗構成や商品構成を柔軟に変えるなど、現地ニーズを的確に捉える努力が見られます。そのローカライズ戦略の巧みさは、今後高知県産品が東南アジア市場で販路を拡大する際の大きなヒントとなります。

 

 一方で、ドンキが日本食の海外展開においてもたらした「価格破壊」は、良くも悪くも他の現地小売業や輸出入事業者、ひいては日本の地方企業に大きな影響を与えています。特に高知県のような地方の中小規模の企業にとっては、採用によって一定の流通量が見込めるものの、品質やこだわりを伝える余地がないまま価格勝負の土俵に乗らざるを得ない状況は、大きなジレンマではないでしょうか。

 

 さらに近年、シンガポールでは物価上昇や生活費の増加を背景に、消費意欲そのものが低下傾向にあります。例えば、2025年2月の小売売上高は前年同月比で3.6%減少し、特に、百貨店が14.6%、スーパーマーケットおよびハイパーマーケットが13.3%と大きく減少しています。また飲食業界では、2025年の月平均の店舗閉鎖数が307件に達し、2024年の254件から増加しています。

※引用元:SINGAPOLE BUSINESS REVIEW、DEPARTMENT OF STATISTICS SINGAPOLE

 

 このように、特に中間層の間では「コスパ」を重視する消費スタイルが広がりつつあり、単に「日本製だから高くても売れる」という構図はもはや成立しないのではないかと考えます。
(正直なところ、現地で生活している一消費者としても、家賃が高知の10倍に迫るような物価水準で日常生活を送るうえでは、日頃から「コスパ」を最重要視して消費せざるを得ないというのを肌で実感しており、日本製はやはり何も考えずに買えるものではないなという印象です…。)

 

◯商品の「価値」を伝えるために

 このような状況の中で、価格競争に巻き込まれず、事業者の皆さまの製品の価値を海外市場で幅広く理解していただくにはどうしたらよいか、拙い経験ながら考えてみましたが、やはり
①自社の商品の「強み」を理解し、バイヤーに分かりやすく示すこと
②現地の需要や法規制に合わせたローカライズ等に柔軟に対応すること
③信頼関係を構築できる現地パートナーを見つけること
の3点に尽きるのではと感じるところです。

 

 これまで高知県では、食品ビジネスの専門家による課題解決支援のプラットフォームである「食のイノベーションベース」や、海外バイヤーに訴求する営業資料の作成支援、さらには海外での食品展示会出展やフェアの開催など、高知県産品の販売拡大・販路開拓に向けた取り組みを展開して参りましたが、これらはまさに上記3つを後押しするツールになれるものではないかと考えております。

 

 今年度も、「食のイノベーションベース」を通じたセミナー等の開催、各国市場における県産品輸出拡大に向けた取組を引き続き展開していきますので、事業者の皆さまにおかれましては、ぜひ県の事業を最大限にご活用いただければ幸いです。

 

 また、特に②については、ドンキは「現地ニーズを捉える工夫」で海外でのローカライズに成功している好例であると言えますし、高知県産品が海外進出を目指す際のヒントにもなるとも感じます。今後もドンキの例に限らず、現地に身をおいて生活するからこそ実感する「違い」や「発見」にスポットを当て、駐在員の立場から継続的に情報発信ができればと思っております。

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