Ryoma dreamed Beyond the Pacific Ocean

2020年12月18日

第8号記事【パリだより】を掲載します。

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2020年、未曽有の危機に立ち向かうフランス飲食業界(前編)

 

高知県食品海外ビジネスサポーター 欧州担当
奥本智恵美

 

 2020年12月、フランスは特別なクリスマスを迎えようとしています。今年は新型コロナウイルスが世界各国に大きな被害を与え、未曽有の経済的危機に直面することになりました。フランスもその一つであり、私がこの「パリだより」を書いている12月初めの現在も、10月30日から始まった二度目の外出制限令下にあり、レストランやカフェなどの飲食店は営業ができない状態にあります。今回の外出制限は段階的に緩和されることが政府から発表されており、すでに生活必需品以外の商店(書店や衣料品店等)は営業を再開していますが、飲食店については1月20日までの営業停止が確定しています。再開については、クリスマス期間中の感染が抑えられたならば、という条件付きです。
 実は、一年前を振り返ると、フランス全国で年金制度改革に反対する大規模ストライキが2019年12月から長期に渡って実施され、飲食業界にとって厳しい年末年始でした。さらにもう一年遡ると、2018年の年末は「黄色いベスト運動」と呼ばれる燃料価格高騰に反対するデモが活発化し、クリスマス商戦に大きな打撃を与えていました。フランスは、実に3年連続で危機的な12月を経験していることになります。
 今なお続くコロナ禍の中、2020年のフランスの飲食業界はどのような対応をしてきたのでしょうか?また、市民の行動や意識にはどのような変化が見られたのでしょうか?

 

 3月14日、新型コロナウイルスの感染者が急増していたことを踏まえ、フランス政府は突然に、生活必需品を扱う食料品店や薬局以外の営業停止を命じました。レストランやバーなどは夜の営業中に当発表を聞き、その4時間後には店を閉めなくてはならないという異例の状況でした。さらにその2日後には外出制限令が出され、いわゆるロックダウンが開始されます。フランス国境は封鎖され、アテスタシオン(申告書)と身分証明書を携帯した必要最低限の外出を除いて市民の外出は禁止され、違反した場合には罰金が課せられることになりました。
 突然の営業停止命令を受け、持っていた生鮮食料品を原価で顧客に譲ったり、福祉団体に寄付をした店も少なくありません。そして多くのレストランシェフが、誰もが苦しい状況下で役に立ちたいと立ち上がりました。医療従事者や警察・消防関係者への食事提供ボランティアに参加したり、普段自分に食材を卸してくれている生産者の野菜などを販売するため、レストランを「仮設マルシェ」として提供したりもしました。また、インスタグラムのライブやYouTubeでレシピを配信するシェフが激増、人気フードブロガーやジャーナリストもそれに加わり、連日メディアでは食に纏わる話題で持ち切りでした。

 

 家庭でも様々な食環境の変化が見られ、まず料理をする機会が増えました。「美食の国」と称されるフランスですが、実のところ、一般的に平日の夜はスープとパン、パスタとサラダなど簡単なもので済ませている場合が多いです。ところが、毎日のテレワーク、そして運動や買い物が自宅から1Km以内・1時間に制限されたことで、人々の関心は「料理すること」そして「健康的な食事を摂ること」に向いていったようです。外出制限下の4月末に行われた調査(*1)によると、42%の人が以前よりも料理にかける時間が長くなったそうです。また、地元生産の食材を重要視するようになったという人が35%と、品物の質や健康への効果に加えて、住んでいる地域の生産者を支援する意識の高まりも見られました。
 前述の地産地消の動きには一部反する点もありますが、3月の外出制限開始以降ECサイトの利用者が増加しています。外出することへの不安や、店舗に入店するための長い行列を避けたい思い、さらには多くの人がテレワークとなり食料品の購入量が増えたことが理由です。インターネットで注文して自宅へ配達する形態の他、注文した物を店舗でピックアップする「クリック&コレクト」形式の需要が高まりました。ある調査(*2)によれば、52%の人が外出制限中に初めてインターネットで食料品を購入しています。外出制限解除後もインターネットでの食料品購入を継続すると答えた人は、全体の90%を占めました(内35%はネット購入のみ、55%はネット購入と店舗購入を併用と回答)。日本との違いは、大手ECサイトの利用に集中するのではなく、スーパーマーケット系、地元の小規模店、オーガニックや日本食などの専門店、生産者直販などを使い分けることにあると言えます。

 

 3月半ばからの第一回外出制限は5月10日まで8週間にわたり、レストランの再開に関しては6月を待たなくてはなりませんでした。6月、ようやく通常営業を許されたパリのレストランはある工夫をします。元々小さな店が多いパリ市内、衛生上テーブル同士の間隔を開けるとなると、極少数の客席しか設けることができません。そこで、即座にパリ市はテラス設置・拡張の特例措置を講じ、基準をクリアすれば、夏期中は公道に無料でテラスを設けることが許可されました。日本食レストランが多く集まるパリ1区のサンタンヌ通りも例外ではなく、狭い歩道や路上駐車スペースに特設テラスが作られました。夜22時頃まで明るいフランスの夏、レストランでの外食をこれまで以上に楽しむ様子が彼方此方で見られました。

 

 フランスでは人々はコロナ禍で外食を敬遠するのではなく、むしろレストランを利用して支援したいという考えが顕著です。地元の生産者や食料品店に対する支援でも言えることですが、「ソリダリテ」(日本語で「連帯」)の精神が根強くあります。また、彼らにとっては家族や友人とテーブルを囲むことがとても大切であり、レストランで家庭とは異なる食の喜びを分かち合うことにも大きな価値が置かれているのです。<後編に続く>

 
 

*1:Darwin Nutritionが18歳以上のフランス人3045人に行ったインターネットアンケート調査(2020年4月24日~27日実施)
*2:Criteo Retail Mediaがフランス人1226人に行ったインターネットアンケート調査(2020年5月実施)

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